【300字SS】冬になったら思いだして
お湯をしっかり沸騰させて、たっぷり空気を含ませる。 小さめの湯飲みに注いで、待って、空の急須に移す。湯飲みは冷まさないように、 また熱湯を注いでおく。 湯冷ましにも上から、空気を含ませるため、少し上から注ぐ。急須と湯冷ましで ...
【300字SS】スープで満たして、溺れるほど。
コンソメスープ味がマイナーだとは知らなかった。 よそで見るのはトマトベースにケチャップ、こってりホワイトソース。ナイフとフォーク。 そうじゃない。 大きめに握った長ネギ生姜豚挽き肉のタネをくったりキャベツで巻いて、 たっぷりのお湯にブイヨン放り込んでぐつぐつ。...
【300字SS】兼業お母さんを休んだ日
お姉ちゃんのご飯は茶色すぎてヤダ。 妹はそう言ってサンドウィッチを買ってきたりパスタをチンしたり、いつも勝手。 おばあちゃんは「洋食屋さん」物ならまだしも、 パンやパスタじゃ納得してくれないし、お父さんはとにかく肉だし、 みんな勝手過ぎる。もう厭。 ...
【300字SS】高度に横滑りした仲良しはBLと見分けがつかない
「毎度ー弁当半分くれ。これ貢ぎ物」 「焼きそばパンと引き替えじゃコスパ悪くね?」 「俺は一日一食くらいうまいメシが食いたいの! なんだよ主婦歴20年のメシマズて。 くーこの普通の卵焼き! いいよなお前んちはー」 「自分で作れば? 桜ちゃんがキラキラまなこで『お兄ちゃ...
【300字SS】ツンデレーション的
「あーん、て食べたい」 「こんな? ただの? ファミレスで?」 「うん」 向かいから蔑みの表情で、フォークにミートグラタンを載せ「あーん」と腕が伸ばされる。 「やるんだ」 「やんなきゃダダ捏ねて捏ねて結局こっちが折れるんじゃない。 ...
【300字SS】週1の儀式
冷蔵庫から取り出した鍋の中では煮干しの水出しがいい色になっている。 そおっと中程までをすくい分け火を入れる。ほんの少し醤油を足して、 うん、いい味。煮干しのお澄まし完成。ベースそのいち。 同じく水出しした昆布の鍋。こちらはそのまま弱火にかける。ふつふつした ...
Beautiful Days~碧の日々~
+2 days 橙(ともる)と連絡が取れない。 前日に上げたデータが吸い出されていなかった。容量は足りるので今日の分も上げられるのだが、かつてないことにもやりとする。だが時間が悪い。メールだけ送り、翌日を待った。 しかし変化はなく、メールの返事もない。靄は黒みがかり、日...
美しく、気高く、凛と立ち、
28歳から5年付き合った彼女は、結婚するのと卑屈な笑みを浮かべ去って行った。その予感はあった。あったけれど、結局なにもしなかった。男と二股かけられるなんて、道化もいいところだ。 悲しくはなかった。むなしいだけだ。 ...
群青の道をゆく(1)
浅海(あさみ)からメールがあった。 2年前に兄の妻になった彼女のメールには、夫の敦一(のぶかず)には言わずに会ってほしいという文面が綴られている。こんな時間に、と慎二(しんじ)は首を捻りながらも了承し、待ち合わせの最寄り駅に向かった。金曜の夜22時、駅前には大きな繁華...
群青の道をゆく(3)
日曜の朝、研究室で身支度を軽く調え、無精ヒゲはそのままに慎二は自転車に跨がり大学を出た。自販機でホットコーヒーを購入し、ゆっくりと駅に向かう。 駅前の駐輪場に自転車を預け、敦一と約束した20分ほど先のターミナル兼ハブ駅に向かう。さすがに地元と違い、休日の午前中から人が溢...