【300ss(オーバー)】3時にはフィーカを
その姿の主は久方ぶりだ。顔を舐めると目を細め 喉を鳴らす。行こう、主、走ろう。木々を抜け雪原 を駆ける。遠吠えを真似させ兎を与える。この若牝 より己が仔狼だった記憶があるのが不思議だ。 ふいに主が踵を返す。巣へ帰る時か。 「ただいま先生!」...
花街ダイニング
眩む光。それから? 声。順番は、たぶん。蓋が開いたんだというのはだいぶたってから。マーナが泣きながら抱きついてきたので、外にいるって気がついた。 その光がササヅキのランタンだとわかったのは次の村に着いて状況を説明するよう求められてから。自分の手も見えない箱の中で、かすか...
15歳の夏
家庭裁判所の廊下で、審判開始をそわそわ待つ。隣に座る和音(かずね)ちゃんはずっと扉を睨んでる。黙ってるのが落ち着かなくて「あのさー」と声を出してしまった。焦って話題を探す。 「和音ちゃんは大丈夫だよ、しっかりしてるし頭もいいし運動できるし。あたしがママを手伝わないのも『ウ...
世界で一番かわいいこ
ついに引越を決めた。荷物の収拾がつかなくなったのだ。たまたま隣駅で分譲賃貸タイプが見つかって即決する。家賃はあがるけどそれ以上に広かったのだ。「タイミングよかったですね」と担当の女性がなあに微笑んていた。相変わらずなあは誰にでもモテる。 ...
【300字SS】[再会/再開]の会話は
「ねえおばさんの写真ないの写真」 日曜の朝っぱらから乗り込んできた彼女が屈託無く笑う。仕方なく、コルクボードにピンで刺した封筒からそれを取り出す。 「あたしも写ってるじゃん。しかもおばさんちっさ! こんな古いのじゃなくてさ」 ...
淅瀝の森で君を愛す
増築した部屋にお義姉さんとなあが引っ越してきて、バタバタしてるうちに産み月がきて、春菜が産まれて、お披露目も兼ねた結婚式と披露宴を済ませた嵐のような1年が過ぎた。その間にあたしはなあとすっかり仲良くなった。お義姉さんが夏生くんをなあと呼ぶので、うちの家族もそれに習った。...
【300字SS】物語(おとぎばなし)を綴る人
また彼女がテレビに出てる。私の本を手に。直木賞受賞作家の原点と称する、 世界でただ一冊の手作り絵本を得意 気に掲げて嘘ばかり。 近所というだけで仲良くなれた日々、恒常的な別離。幼 かった。善悪がわからない程。だけど。 ―――借りパク女。それはあんたのものじゃない。テレ...
僕の真摯な魔女
魔女を好きになった。 それはいろいろささやかな、彼女が行う行為を目撃することで。 「最近怪我が多くて。そんなに不注意な方ではないんだが」 「委員長わぁー、恋に盲目なんじゃないすかあ?」 「は? なんだそれは」 彼女の友人は、大人しい彼女にはそぐわない、派手な、アタマ...