【300ss(オーバー)】3時にはフィーカを
その姿の主は久方ぶりだ。顔を舐めると目を細め 喉を鳴らす。行こう、主、走ろう。木々を抜け雪原 を駆ける。遠吠えを真似させ兎を与える。この若牝 より己が仔狼だった記憶があるのが不思議だ。
ふいに主が踵を返す。巣へ帰る時か。
「ただいま先生!」
「おかえり、ちゃんと戻れたね。お茶(フィーカ)にしましょう」
「あ、カントゥチーニ」
「シナモンロールはオメガが食べられないもの」
「はい」
するりと後ろ足で立ち上がり薔薇灰の長い鬣を残 すだけになった主は、主の母に笑いながら「服」を 羽織りテーブルについた。わたしはその足元に用意 された、蜂蜜を混ぜた甘い乳に鼻を突っ込む。肉は 旨いが甘味もいい。主がふたつに割った菓子もいた だく。
「食べ終えたら眠りなさい。姿替えは疲れるから」
「はい先生」
主のベッドの下、寝床に潜り込む。
「オメガ、また走ろうね」
上から垂らされた指を舐め、同意した。