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魔術師とマダム

  • まるた曜子
  • 2019年3月5日
  • 読了時間: 2分

序章

 自分が『人間』という種族に属していると、人はいつ認識するのだろうか。私にとってマダム以前は『人間』ではなかった。誰も私を人間扱いしなかった。年嵩の少年たちに教わった暮らしも、『食べる』『逃げる』『寝る』で構成されていて、衣服はボロの大人服を頭から被っただけ、穴を塞ぐ必要も下着の利便性も知らず。過去もなく、未来もなく。かろうじて少年たちが同族かもしれぬと理解していたかもしれない。だが世の大人が自分の未来だとは知らなかった。

 『ついてきなさい』とくさりをひかれてシワシワのばばあについていったらばばあじゃなくなってた。まちがえた。いけない。いつのまにまちがえたんだろう、ずっとくさりでひっぱられてたのに。どうしようまたあいつにつかまって『つかえないがき』ってたたかれる。ムチはびゅんっていたい。いやだ、いたいのはきらいだへんなこえしかでないしわらわれる。どうしよう。 「間違っていないし鞭で叩かれもしないわよ。お前は私が買ったんだから」  めのまえがくらくなってうえをむいたらばばあじゃないおんながわらってた。わらってるのにこわい。 「目眩まし。私がお婆さんのフリをしたの。わかる?」  フリはわかる。まねっこだ。おれもよくあにきたちのまねをして『ものごい』した。だんなさまやおくさまにおねがいする。なかなかかねはもらえなくていつもおなかがすいててあいつからにげるときにころんでしまった。おれたちはみんなつかまった。 「そう。そしてタダ同然でお前を手に入れた男は、常の手口でお前の舌先を切り焼いて、最低限の水と粥で飼って、家の支度が不自由になった年寄りに下男として売りつけた。男で、私の衰えとは逆に、育って力も付けば使い勝手は良くなるばかり、しかも口が利けないので外でおしゃべりもできない、と口上をつけて、高値を提示してね。下男の仕事なんてなんにも仕込んでないクセにねえ。私はそこから少々の値引き交渉をして、これを手に入れたわけだ」  にんまりわらうのがこわくてぽかんとみあげてたら、ちゃらりとかねのぼうがフリフリされる。おれのてとあしにはわっかがついてくさりでつながってるけど、それをつけられたときにあいつもわらいながらおんなじのをふった。 「さあ、理解したらもう少し歩きなさい。男が誰に売ったのか気づく前に」  ばばあがおんなだというのでそのままついていった。こわかったけどたたかれないならいいや。

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