魔術師とマダム
序章 自分が『人間』という種族に属していると、人はいつ認識するのだろうか。私にとってマダム以前は『人間』ではなかった。誰も私を人間扱いしなかった。年嵩の少年たちに教わった暮らしも、『食べる』『逃げる』『寝る』で構成されていて、衣服はボロの大人服を頭から被っただけ、穴を塞ぐ必...
野をゆくは魔女と景狼
デンマークを除いたスカンディナヴィア、そしてスオミ、ラスィーヤの白海付近が私たちの持ち場。大陸と隔てる「おそらく」境界線。広いけれど人口は少ない。魔女も少ない。スカンの《魔女》は長らく21から11に減らしている。12にも満たない。 ...
Beautiful Days~碧の日々~
+2 days 橙(ともる)と連絡が取れない。 前日に上げたデータが吸い出されていなかった。容量は足りるので今日の分も上げられるのだが、かつてないことにもやりとする。だが時間が悪い。メールだけ送り、翌日を待った。 しかし変化はなく、メールの返事もない。靄は黒みがかり、日...
羽化待ちの君
小さな頃から、たまに我が家にやってくる、『おじ』を名乗る男が好きだった。ヒゲだらけだったり埃臭かったり髪が茫々だったりしたが、現れる度美しい小物や珍奇な物、奇妙な刺繍の羽織物などを橙(ともる)にくれるし、気味の悪い昆虫や爬虫類を、美しい写真に納めてきて見せてくれた。グロテス...