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お題『霧』/八十八夜

  • まるた曜子
  • 2018年11月3日
  • 読了時間: 1分

『とにかく霧がすごいんだよ、でもバーッと晴れるの!』

毎年この時期私をここに運ぶのは、同僚の君のそんな誘い文句から。バーカ、これは朝靄だ。遠くに滲む信号機。

茶畑の、断崖絶壁みたいな畝に入って初葉を摘む。最初の年は命綱!と叫んだけれど、入ってみれば茶の樹に挟まれて落ちようがない。靄が流れる。光を背に受ける。

「駿河湾だ」

別の畝に入っていた彼も声を上げた。『バーッと晴れる』瞬間は何度迎えてもサイコー。今朝のバイトは終了、私は会社に向かう。

「仕上げて、週末はアイツに報告だな」

提案に頷いた。私が摘んだ葉を、茶農家の彼がお茶にする。君の好きな練り切りを買おう。今年は7回忌。君の作戦通り、私は彼と籍を入れる。

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