【300字SS】物語(おとぎばなし)を綴る人
また彼女がテレビに出てる。私の本を手に。直木賞受賞作家の原点と称する、
世界でただ一冊の手作り絵本を得意 気に掲げて嘘ばかり。
近所というだけで仲良くなれた日々、恒常的な別離。幼 かった。善悪がわからない程。だけど。
―――借りパク女。それはあんたのものじゃない。テレ ビを消した。
日曜の朝なのにインターホンがひっきりなしに鳴る。
「なんで連絡くれないの! ペンネームじゃわかんないよねってあんなにアピールしたのに!
調査費で賞金半分飛 んじゃったよ!」
出演がサインなんて、本当を知ってる私を待ってたなんて怒られても。
細かなほつれはあれど、20年前の物とは思えない布張り表紙をゆるりと撫でる。
おかえりなさい、おかあさん。