山鳩 ~まんが日本昔ばなし底本~
雨が降ってきた。 俺は村から伸びる山道を、そしてその道を覆い隠す山の木々を見あげた。これは大丈夫。農作業の手を止め山を眺める俺を、妻(さい)が覗うのを背中に感じる。それを無視して鍬を振り上げる。妻の視線も逸れた。 この村の男はみな、なにがしかの鳥になる。人の器で生まれる...
15歳の夏
家庭裁判所の廊下で、審判開始をそわそわ待つ。隣に座る和音(かずね)ちゃんはずっと扉を睨んでる。黙ってるのが落ち着かなくて「あのさー」と声を出してしまった。焦って話題を探す。 「和音ちゃんは大丈夫だよ、しっかりしてるし頭もいいし運動できるし。あたしがママを手伝わないのも『ウ...
世界で一番かわいいこ
ついに引越を決めた。荷物の収拾がつかなくなったのだ。たまたま隣駅で分譲賃貸タイプが見つかって即決する。家賃はあがるけどそれ以上に広かったのだ。「タイミングよかったですね」と担当の女性がなあに微笑んていた。相変わらずなあは誰にでもモテる。 ...
美しく、気高く、凛と立ち、
28歳から5年付き合った彼女は、結婚するのと卑屈な笑みを浮かべ去って行った。その予感はあった。あったけれど、結局なにもしなかった。男と二股かけられるなんて、道化もいいところだ。 悲しくはなかった。むなしいだけだ。 ...